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執筆者の写真Manabu

ミミズも光る!ゴカイも光る! 〜道ばたから深海まで〜

更新日:2023年3月28日

1. ホタルミミズのシーズンです

ご無沙汰しています。

気がついたら2023年も3月に入っていました。

この時期になるとホタルミミズが出てきます。


街中でも見つけられるので、もっとも身近な発光生物と言えるかもしれません。

ホタルミミズは、ミミズの一種で、苔が生えているような湿った生垣や花壇の土で見つかります。

名古屋大学の構内の植え込みにもそこらじゅうで見つかり、本山まで行く途中の歩道の土でも見つかっているので、本当にどこにでもいます(図1)。ただし、4月後半から5月が最後に見られるくらいで、初夏が始まると何故か見つけられなくなってしまいます。

 ミミズにしては1cm程と小さく、透明感のあるピンク〜オレンジ色をしているので、割とかわいいです。

明確な発光器官はありませんが、体内に発光細胞を溜め込んでおり、刺激に応じてこの発光細胞が分泌され緑色の発光を示します(λmax = 538 nm, Wampler 1982)。この細胞はミミズの尾部側に特に多く、発光を見たい方は、尾の先端あたりを刺激するといいでしょう(図2)。


図1 ホタルミミズ採集の様子

(a) ホタルミミズの糞塊とその拡大図(点線)。灰色の乾いた糞塊の真ん中に濃い茶色の湿った糞塊があれば、まだ新しい糞塊、つまり、すぐ近くにホタルミミズがいると考えられる。(b)留学生がホタルミミズ掘りに挑戦。(c)ピンクっぽいちいさめのミミズが出たら当たり!お見事!


図2 ホタルミミズとその発光

透明感があり、腸に土が詰まっているのがわかる。環帯があるのが頭側(向かって右)。尾側を刺激すると緑色に発光する。


ホタルミミズを含むミミズは環形動物門の中の貧毛類に属しています。環形動物門は昔は貧毛類と多毛類とヒル類の3つに分けられていたのですが、DNA配列を用いた分子系統解析が進み、現在では貧毛類とヒル類は多毛類の一系統として考えられています。


2. その他の発光ミミズ

環形動物は多様な動物のグループで、ミミズのようなシンプルな形からツバサゴカイやオヨギゴカイと行ったように同じ仲間とは思えないような形態的多様性に富んだグループです。そして、生物発光においても、多様性が高く、また、(軟体動物に並んで)最も謎に包まれている分類群です。環形動物門には14の科でおよそ150種もの発光種が報告されています(Verdes and Gruver 2017 Integrative and Comparative Biology)。

 ホタルミミズと同じくムカシフトミミズ科に属しオーストラリアに生息するDiplocardia属をもちいた研究で、ルシフェリンが解明されています(ルシフェリンの構造参照)。このミミズのルシフェリンの構造はとてもユニークで、蛍光を持ちません(Ohtsuka et al., 1976 Biochemistry)。多くのルシフェリンはカルボニル基と(芳香環などの)共役系を持ち、酸化エネルギーが共役系に保持される(共役系の電子を励起状態にする)ことで、特定の波長を放出します。ところが、ミミズのルシフェリンには共役系がなく、どうやって酸化エネルギーを光に変換しているのかについてはわかっていません。おそらく、発光反応のすぐ近くに蛍光物質がありそれが化学エネルギーを光エネルギーに変換する鍵(ライトエミッター)となっているのでしょう。ムカシフトミミズ科には青っぽい色から黄緑色と生物発光の波長域が広く、これはルシフェリンの酸化エネルギーをうけるライトエミッターに多様性があるからなのかもしれませんが、その実体は未解明です。


 ヒメミミズではロシアに生息するFriderica heliotaが青白く発光します(λmax = 478 nm)が、そのルシフェリンの構造はとても複雑な構造をしています(Petushkov et al 2014 Angewandte)。一方でルシフェラーゼについてはまだ明らかになっていません。

ヒメミミズはとても小さいので、よくまあこんな複雑な新規化合物を見つけられるだけ、材料を集めたなあと思うのですが、著者らは五年以上かけてひたすらヒメミミズFridericaを集めたらしいです。


3. 発光ゴカイ

海産の発光ゴカイはたくさんいます。普通に見つけられるもので言えば、砂浜に潜り、棲菅を砂から出しているツバサゴカイChaetopterus (図3)や、磯にいるウロコムシHarmothoeなどは見つけやすい種類かと思います。


図3 いつか紹介したツバサゴカイ(A)の発光(C) と蛍光(B,D)


月夜の晩に円舞を行い求愛するシリスOdontosyllisの仲間は、発光生物学者の間では日本の富山湾が有名で、一年に一度だけ産卵遊泳すると知られています。バミューダ諸島近海の海でミステリアスに光る輪っかが報告されており、これがオドントシリスが求愛のための発光行動であることは古くから知られていましたが、最近まで、発光の分子メカニズムは未解明でした。

 2018年に日本の富山のクロエリシリスOdontosyllis undecimdonta(図4)をつかって、2つのグループが同時にルシフェラーゼ遺伝子を解明しました(Schultz et al., 2018 BBRC; Mitani et al., 2018 Sci Rep)。さらにその翌年に、ルシフェリンの構造も解明されました(Kotlobay et al., 2019 PNAS)。クロエリシリスのルシフェリンとルシフェラーゼはどちらもこれまで見つかっていたものとは全く異なる全く新しい構造をしていました。



図4 クロエリシリスOdontosyllis undecimdonta(上)とその発光(下)


また、フサゴカイは数ある発光生物の中でも最も青色に発光する種として、知られています(Kanie et al., 2021 Sci Rep)。


 深海にももちろん不思議な発光ゴカイはたくさんいます。ツバサゴカイなのに、底生性を捨てて浮遊生活を選んだ豚のお尻のようなPig butt (Osborn 2007 Bio Bull)や、風船のようなハボウキゴカイPoeobiusなどもいます。海洋生物は基本的には青色に光るのですが、オヨギゴカイTomopterisの一部の種は黄色に発光することが知られています。同属で青く光るものもおり、この青色を蛍光物質Aloemosinアロエモジンによって黄色く変換しているのだと考えられています。しかし、ツバサゴカイがどのように黄色の発光を使っているのかについては全くわかっていません。というか、そもそも環形動物で発光の役割が解明さえた種はほとんどいません。発光を捕食者に対してのおとりに使っていると考えられるものの一つに、グリーンボマーGreen bomberと呼ばれる浮遊性のゴカイSwima bombiviridisがいます。小さな体に似つかない巨大な爆弾をイヤリングにしているような見た目をしていて、刺激を受けると、この爆弾を爆発させて周囲に光を放ち、その隙に逃げるのだとか。深海生物の目が青色に適していることなどを考えると、なぜ緑に光るのかまったくもって理解に苦しみます。

(私が肉眼で観察した印象では黄色に近いゲンジボタルくらいの黄緑に見えました)


4.おわりに

以上、謎の多い光るミミズ・ゴカイの話をまとめました。もっと詳しく知りたい方はVerdes & Gruber 2017がよくまとまっていますのでそちらも参考にしてください。

 環形動物は、見た目の多様性もさることながら、生物発光においても高い多様性を持っています。環形動物における生物発光の進化の全容を明らかにするにはまだまだ基本的な情報が不足している状況だと考えています。発光の進化史が複雑で研究が難しい考えられる3大グループには、脊索動物・軟体動物そして環形動物だと考えていますが、改めて見直してもゴカイ・ミミズは奥が深いと感じました。

 ミミズもゴカイも土壌中や底生環境あるいは深海といった、これまで人類があまりあるいはほとんど研究してこなかった領域に生息しています。なので、化学的な知見だけでなく、それこそ新種発見などといった分類学などの基礎的な研究もこれからどんどんすすめていく必要があると思います。実際に、ホタルミミズの発光メカニズムはまだ解明されていません。あなたが普段歩いているその地面の下にも、実は大発見が待っているのかもしれません。


(2023.3.27 名古屋大自見博士の指摘により学名・和名など一部修正しました。ありがとうございました。今後はよりいっそう正確な情報を発信するようにきをつけます。)


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