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  • Manabu

ツバサゴカイChaetopterusの発光


ツバサゴカイ(A)は紫外線で励起される青緑色の蛍光をツバサ部分Parapodiaに持っている(B)。発光は蛍光を持つ部分だけかと思いきや、胴部分が発光した(C)。その後もう一度紫外線を当てると、発光部分が蛍光

を発した(D)。


ツバサゴカイの発光はあの下村脩博士も取り組んだ。下村先生はFe2+ が関与するフォトプロテインだと考えていたが、今回その仮説を覆す論文が出た。





ツバサゴカイの発光に関してロシア語で大事そうな論文が出たので、備忘録として和文解説


ЛЮЦИФЕРИН-ЛЮЦИФЕРАЗНАЯ СИСТЕМА МОРСКОЙ ПОЛИХЕТЫ

К. В. Пуртов1,*, В. Н. Петушков1, Н. С. Родионова1, В. Г. Пахомова1, И. Н. Мяснянко2, Н. М. Мышкина2, А. С. Царькова2, академик РАН И. И. Гительзон1


さっぱり読めないが、google scholarに登録されている英語タイトルはこのような訳


Luciferin-luciferase system of marine polychaete Chaetopterus variopedatus


これまでツバサゴカイChaetopterusの発光はフォトプロテインだと言われていたが、今回の論文ではルシフェラーゼっぽいことがわかったのかな?著者にはロシアの優秀な研究者のPurtovが入っているから信用できそう。以下Google翻訳でロシア語->英語に直したものを読んでみた。


ーーー論文の内容ーーー


ツバサゴカイの粘液も発光するので、純粋なタンパク質溶液としての解析が難しく、下手な生化学者が研究するせいで混乱を生むだけの論文が量産されていた。

Fe2+が必要だとか、むしろ阻害するとか、過酸化水素がいるとかいらないとか。とにかく論文によって結論がまちまちでコンセンサスが取れていなかった。(論文の2段落目でも嘆かれている)


ツバサゴカイは、世界中の海岸とか砂浜に分布し、粘液で作ったU字型のチューブに生息する。刺激に応答して、青色の発光粘液を分泌する(最大発光波長460 nm)。下村脩博士によると、発光の仕組みは、Photoproteinタイプであり、さらにO2, Fe2+, H2O2および2つの未知因子からなることが示唆されていました。


最近は蛍光物質のリボフラビンとフェリチンが発光に関与することがいくつかの論文で言われているけど、きちっと証明されていませんでした。


著者ら(Purtovら)の実験では、グラジェントの陰イオン交換で精製すると、発光活性を持つ物質は取れなかったけど、ステップワイズで溶出すると取れる。なので、Photoproteinではないだろうと考えられる。(どういうこと)

 ー おそらくステップワイズだとグラジェントで別れてしまうものが同じ画分に落ちてくるから?ちょっとよくわからん。


発光物質の抽出と陰イオン交換クロマトグラフィー

ブラジルで取れたツバサゴカイの全身Whole body(冷凍)をリン酸バッファーpH 7.5中で破砕し、遠心分離25000g 20 min。上澄は光っていた。

発光活性測定には抽出物に対して硫酸鉄(Fe2+)を終濃度2 µMとなるように加えて反応を開始した。

抽出物を陰イオン交換で精製DEAEカラム 20 mM リン酸バッファーpH 7.5、NaClグラジェント0-500 mM.

各フラクションをそれぞれ混ぜ合わせると、2つのピークが出てきた。

限外濾過より、ピーク1は30kDa以上(おそらくルシフェラーゼ)、ピーク2は5 kDa以下(おそらくルシフェリン)である。


タンパク質の抽出と精製

100gの冷凍ゴカイを300 mLの10 mMリン酸バッファーpH 7.5で抽出。硫安分画(30-60% sat.)さらにpH6 10 mM PBSで透析し、沈殿形成、遠心分離で上澄を回収。CelluloseDEAE-32陰イオン交換カラムを使って10mM PBS pH 6 で素通りを回収。これをpH 7.5で平衡化したSepharoseDEAE-FF陰イオン交換カラムに吸着させて、NaClのグラジェントで溶出した。活性画分を硫安60%で回収し、Sephacryl S-200でサイズ分画して、もう一度SepharoseDEAE-FFで精製した。これを30 kDaの限外濾過で200 µLまで濃縮して、Superdex 200で精製した。溶出した活性のピークから、ルシフェラーゼは80 kDaのタンパク質であることが示唆された。


ルシフェリンの抽出と精製

2倍量の70%EtOHで抽出。遠心上清を等量の純粋で希釈。C16M (Biokhimmak)で濃縮。50% EtOHでwash、96% EtOHで溶出。


ルシフェリンの濃度依存的に発光が増加する。またFe2+も濃度依存的に発光が増加することから、補因子ではなく第二の基質(還元剤として)として働いてると考えられる。



コメント

冒頭でPhotoproteinではないことの根拠として、発光反応速度がFe2+, H2O2の添加時は遅いので、fenton反応っぽいと言っていたが、ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応の場合は速度については実験していなかった。

C16Mでルシフェリンを精製しているから、H2O2は除けているからということだろう。


抽出液が光っているうち(ルシフェリンが消費されないうち)にクロマトで精製したことが今回の論文のミソ。

Fe2+が発光に関与するなら、それを阻害するような対照実験を組んだデータが欲しかった。

ルシフェラーゼの関与についても、熱失活やプロテアーゼ処理があればタンパク質の関与がサポートされるが、なかったのが残念。

冷凍個体を潰して抽出液が光る点は深海のChatopterusとは違うなあ。試してもいいかも。


発光スペクトルがないのは残念。青色460 nmに光っていなければ、別のものを見ている可能性もある。粘液に含まれるフェリチンがFe2+のキャリアとして働いているのかも。


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