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Manabu

浅海性の発光魚について 共生発光魚編

更新日:2020年12月8日



光る魚といえば何が思い浮かびますか?

サンマ?サバ?イワシ?

寿司ネタで光りものと言われるこれらの魚はグアニン結晶を鏡のようにして体表に纏い、外からの光を反射しています。自らは光っていません。

ホタルのように暗闇で発光する魚をご存知でしょうか。チョウチンアンコウが有名ですが、こいつは深海魚で滅多に生きている姿をお目にかかれません。今回はもっと浅い海にいる発光魚たちについてご紹介します。


キンメダイ目の発光魚

浅い海の発光魚としてはヒカリキンメダイが一番有名です。

目の下に発光器を持っていて、瞼のようなシャッターを開け閉めすることで明滅します。

和名がついている種はヒカリキンメダイAnomalops katoptronとオオヒカリキンメダイPhotobrephanon palpebratumだけです。水族館で群で展示されている種はヒカリキンメダイの方で、フィリピンやインドネシアからやってきていると思います。沼津深海水族館や美ら海水族館で100匹ほどの大群で展示されているのを見たことがあります。

一方、オオヒカリキンメダイは一度だけ沖縄で見つかったことがあります。夜行性のハタンポという魚類の調査を夜中にしていた研究者が偶然見つけたそうです。(小枝ら 日本魚類学雑誌 2014)


同じくキンメダイ目に属する発光魚ではマツカサウオMonocentris japonicaがいます。黄色いマツボックリのような見た目のマツカサウオは鎧のような硬い鱗と棘のように尖った背鰭と胸鰭を持つことでマニアに人気が高いですが、実は下唇の裏に発光器を持っています。オーストラリアにいるオーストラリアマツカサウオCleidopus gloriamarisは目の下に発光器を持っていて、こちらは名古屋市科学館で展示されています。





キンメダイ目のこれら2つのグループは露出した発光器を持つことで共通していますが、発光器の形態、そもそも魚の形態は全然違うので独立に進化したのかと思います。それぞれの発光器には発光バクテリアが共生しています。魚は栄養と安全な住処を提供し、バクテリアは発光能力を魚に提供します。


発光バクテリアの発光メカニズム

バクテリアの発光はホタルの発光とは別の生化学メカニズムであり、ATPやホタルルシフェリンを使いません。

バクテリアのルシフェリンは脂肪酸です。そして補因子にフラビンモノヌクレオチド(FMN)が使われます。ルシフェラーゼはヘテロ2量体です。発光バクテリアのゲノムにはルシフェラーゼとルシフェリン生合成遺伝子群がクラスターを作っています。ちょうどlac operonのような感じですね。


発光バクテリアの分類

マツカサウオにはPhotobacterium fischeri (注)が共生していることが知られています(Ruby & Nealson, Biological Bulletin 1976)。この発光バクテリアは、発光ダンゴイカHawaiian bobtail squid, Euprymna scolopesと共生しているのと同種です。このバクテリアは自由生活をすることができ、発光器内の菌の密度が高くなると鞭毛を林新たなホストを探すたびにでるそうです。

注:Photobacterium fischeriはその後Vibrio fischeriに再分類され、さらにAllivibrio fisheriに再再分類された。


一方で、ヒカリキンメダイの発光器には自由生活のできない絶対共生バクテリアが発光の役割を持っているそうです。絶対共生をするタイプのバクテリアは実験室での培養が困難なため、長らく研究が進んでいませんでした。2014年に共生発光魚の研究者であるDunlapらが、ヒカリキンメダイの共生発光バクテリアのゲノムを解読しました。このバクテリアはこれまで知られていたどの発光バクテリアとも異なっていたので、新たにPhotodesmus katoptronと名付けられました。さらにゲノムを詳細に調べることで独特な進化をしているそうなので、興味があれば原著論文(Hendy et al., Environmental Microbiology 2014)に当たってください。


スズキ目ヒイラギ科の発光魚

葉っぱのように平ぺったいヒイラギという魚がいます。漁港近くの市場では割と売っています。高知では「にろぎ」という名前で干物が売っていました。フィリピンでも市場でヒイラギの干物がたくさん売っていました。こいつも実は共生発光魚です。

下半身全体がぼんやり光るので自分の影を消すために光るカウンターイルミネーションとしての役割を持つと考えられます。全身を均一に光らせるための工夫としてヒイラギは実に面白いことをやっています。


図 ヒイラギの発光の仕組み

食道(OS)から分岐した共生室(Symbiont chamber, SC, 緑色)に発光バクテリアが住み着いている。共生室からの発光は浮き袋(gas bladder, GS)に投射され、反射することで光を分散し腹側を均一に光らせることができる。


ヒイラギは食道から分岐した共生室を持っており、ここで発光バクテリアを培養します。そのままでは強い発光が一点から放たれるので、均一さがたりません。ヒイラギはこの発光室の口を開けることでバクテリア由来の発光を浮き袋に投影します。さらに浮き袋の上側に貼り付けられた反射板を利用して光を均一に下方向へ分散させます。

ヒイラギ科の一部の仲間はこの発光の仕組みをさらに工夫し、腹側だけでなく吻部(くち)や頭部、体側を光らせることができます。すなわち、発光をカウンターイルミネーションだけでなく種間・種内コミュニケーションにも使っているそうです。幅広い種を用いて、網羅的に発光器とその関連組織をMRIで比較解析した面白い論文(Chakrabarty et al., Journal of Morphology 2011)もぜひ読んでみてください。発光魚の進化って本当に面白いです。


スズキ目ホタルジャコ科

高知ではじゃこ天という練り物に入っているのを見ました。

発光はヒイラギと同じように下半身全体がぼんやり光るのでカウンターイルミネーションの役割を持つと考えられます。

ホタルジャコAcropoma japonicumは腸管から分岐した発光器を持ちます。


スズキ目テンジクダイ科

最後はテンジクダイ科のヒカリイシモチSiphamia tubiferはウンチが光る共生発光魚です。増えすぎた発光バクテリアを外に出すので、フンが光ります(Dunlap & Nakamura, Journal of Morphology 2011)。ちなみに、近縁種のイナズマヒカリイシモチは可愛く擬人化されて「深海魚のアンコさん」に出ていました。

テンジクダイ科には共生発光魚と自力発光魚が混在していて、その系統関係はまだはっきりしていません。このグループの発光の進化も面白いと思います。



浅い海の自力発光魚については次回のブログで書きます。

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