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執筆者の写真Manabu

刺胞動物門で発光は何回進化した?

更新日:2020年12月8日

刺胞動物門における発光形質の進化について


光る生き物といえば、ホタルと双璧をなすのがクラゲですよね。

GFPがノーベル賞をとったことで一躍有名になったオワンクラゲですが、クラゲの仲間における生物発光の研究はどれくらい進んでいるのだろうか。実は、ちゃんとした研究ってあんまりないんです。


ノーベル賞研究者が研究してたのに?と思うかもしれませんが、下村脩博士は、進化学者ではなく化学者なので、一種をとことん突き詰めるタイプでした。なので、オワンクラゲの発光&蛍光についてはものすごく細かいところまでかなり研究が進んでいるのですが、他のクラゲについてはあまり研究が進んでいません。


クラゲはサンゴやイソギンチャクとともに刺胞動物門に分類されています。

刺胞、もしくは刺胞細胞は毒針を備えた細胞で、これを使ってクラゲたちは餌を採ったりします。刺胞動物はサンゴもイソギンチャクもミズクラゲもオワンクラゲも人畜無害そうに見えても立派に刺胞を持っています。我々が触っても、皮膚が厚いので、刺胞から発射された毒針は防御されてしまうために効果を発揮することがないそうですが、皮膚に守られていないところ、例えば口の中や舌で舐めたりするとちゃんと刺胞を持つことがわかるそうです。例えば、ミズクラゲも毒性自体はすごく強いらしく、触手をそのまま口に入れると、めちゃ痛いらしいです。やったことないので又聞きになりますが。


話はそれましたが、今回は刺胞動物の生物発光の進化の謎について書いていきたいと思います。



発光種は3つの綱で見つかっている

刺胞動物門には11,000種ほど報告されており、うち7,500種がサンゴやイソギンチャクなどを含む花虫綱Anthozoaで、残り3,700種がクラゲ亜門Medusozoaとなり、その下にヒドロ虫綱Hydrozoa、箱虫綱Cubozoa、鉢虫綱Scyphozoa、十文字クラゲ綱Staurozoaがいます。WoRMSによると、本当はあと3つくらいよくわからないマイナーグループがいるらしいですが、今回は省きます。

そして、発光生物は花虫綱、ヒドロ虫綱、鉢虫綱の3つの綱から見つかっています。


花虫綱 光るサンゴとイソギンチャク

花虫綱はさらに触手のつき方から二つの亜綱に分類されます。一つのポリプに触手が8個ついているのが八方サンゴ亜綱Octocorallia、6または6の倍数ついているのが六方サンゴ亜綱Hexacoralliaになります。


図1 ウミエラ目Pennatulaceaの一種Funiculina sp.の蛍光


八方サンゴ亜綱Octocoralliaはソフトコーラル、ヤギ、ウミトサカ、ウミエラ、アオサンゴが含まれます。光るものだと、ウミシイタケ(Renilla)やウミサボテンがよく知られています。

また、宝石サンゴ(モモイロサンゴ)もこれに含まれます。英語だと、Sea fanやSea penとも呼ばれています。こっちのほうがイメージしやすいと思います。fanつまり、扇のようにヒラぺったく広がっていたり、羽ペンみたいな形をした種がいます。

ウミシイタケやウミサボテンはどちらもウミエラ目Pennatulaceaに含まれていて、他の発光種も多くがウミエラ目に含まれています。これらの発光種はセレンテラジンとセレンテラジン型ルシフェラーゼを使って発光することがわかっています。ウミエラ目では発光の分子メカニズムが共通しているので、同じ起源だと考えられ、ウミエラ目の共通祖先はすでに発光能力を獲得していた可能性が考えられます。

ウミトサカ目の仲間では、石灰軸亜目のトクササンゴ(Isididae)などとウミトサカ亜目のウミテングタケ(Anthomastus)も光るらしいです。これらの発光メカニズムに関する研究はなく、セレンテラジンを使っているのか、独自のルシフェリンを持っているのか、またルシフェラーゼに関しても何もわかっていません。

トクササンゴとウミテングタケはウミエラ目とは別の目に属しており、ウミトサカ目のほとんどは光らないので、その進化起源は謎に包まれています。


六方サンゴ亜綱Hexacoralliaはイソギンチャクっぽいやつといわゆるハードコーラルからなります。サンゴ礁のサンゴをイメージした時に出てくるサンゴは大抵こいつです。

この仲間には、発光種はほとんどおらず、深海に生息するイソギンチャクの仲間が例外的に光ることが知られています。イソギンチャク目Actiniariaのイソギンチャクはハエトリソウ(Venus fly-trap)のような形をしており、普通は平ぺったいイソギンチャクの口が、二つ折りに畳まれたような形をしています。そのため英語でもVenus fly-trap sea anemone(直訳:ハエトリソウイソギンチャク)と呼ばれています。和名はクラゲイソギンチャクですが。クラゲイソギンチャクは2012年にパナマ沖で発見されたばかりで、光るよってこと以外は謎に包まれています。

 また、スナギンチャク目Zoanthariaにもセンナリスナギンチャクで発光が報告されています。

約3,000種もいる六方サンゴのなかで、たったの2種(あるいは2属)しか発光せず、また、これらは目レベルで系統が離れているので、それぞれ独立に進化したと見て良さそうです。

センナリスナギンチャクは実はセレンテレラジンを使っているそうです。


図2 花虫綱の科の系統関係と発光種(青丸)の分布


ヒドロ虫綱

オワンクラゲを含むグループです。ヒドロ虫綱にはたくさん光る種がいます。これまで研究された中では、ヒドロ虫綱の発光クラゲは全てイクオリン型の発光システムを持っています、つまり、Caイオンで発光がトリガーされるタイプの発光タンパク質Photoproteinを持っています。このタンパク質は、今では生命科学の重要なツールとして普及しています。特に、カルシウムを感知して光るので、神経活動を可視化するのに使われたりしています。

軟クラゲ目Leptomedusaeには、オワンクラゲAequorea属の他にもオベリアObelia属、ウミコップ属Clytiaなどが光る種類として有名です。

剛クラゲ目Narcomedusaeには、カッパクラゲSolmissus属が有名ですが、他にも光る種はたくさんいると思います。

管クラゲ目Siphonophoraはおそらく全部光ります。あ、でもカツオノエボシは光らないかも。

ヒドロ虫綱には光る種がめちゃくちゃたくさんいて、一応全てCaトリガー型発光タンパク質ということになっているので、これらの共通祖先で一度発光が進化したと考えられていて、光らないクラゲは、進化の過程で発光を二次的に消失した(退化した)と考えられます。


図3 管クラゲの一種 フタツクラゲモドキDiphyes dispar (多分?)  栄養部(細かい並んでるやつ)それぞれに緑色の蛍光点が綺麗です。



鉢虫綱

このグループは面白いことに、発光タンパク質とルシフェラーゼで光る2種類のタイプがいます。

オキクラゲPelagia noctilucaは発光するという報告があり、こいつは発光タンパク質を持っているらしいです。もし捕まえたり、研究用に提供していただける方は是非ご連絡ください!!一方で、ムラサキカンムリクラゲPeriphyllaやAtollaなどの深海クラゲはルシフェラーゼを使って発光するそうです。


図4バツカムリクラゲAtolla


そして、深海棲のリンゴクラゲPorariaも発光することが報告されていますが、これの発光メカニズムは全く不明です。


図5 リンゴクラゲPoralia


これら3グループのクラゲの系統関係が気になりますが、おそらく3系統で独立に進化しているのかと考えられます。



刺胞動物において発光は5回くらい進化した

発光の進化が起こった回数を正確に推定するには、まだまだ情報が足りません。ですが、今ある情報(と言っても僕の勉強不足もあるので漏れがあると思ってください)、で考えると少なくとも5回は発光が独立に進化していると考えられそうです。

ちょっと多めに見積もると花虫綱で4回、ヒドロ虫で3回(それぞれの目で並行進化?)、鉢虫綱で3回の合計10回進化したと考えられなくもないです。まあ正確に何回かなんてわかるのはまだまだ先のことです。

何回進化的起源を持つのかの正確な推定のためには、(1)正確な分類系統関係を推定することと、(2)発光のメカニズムを解明し、(3)その分子の種類を系統樹にマップすることが必要になります。現段階では(1)~(3)のどれも達成できていないので、まだまだ時間がかかりそうです。


刺胞動物の発光の進化の解明に向けて課題はたくさんありますが、特に八放サンゴ亜綱での発光の分子メカニズムがわかるといいと思いませんか?ウミトサカ目の発光メカニズムがウミエラ目と同じセレンテラジン-ルシフェラーゼ型なのかどうか。それがわかることで、かなり、問題はすっきりしてきます。

あーそんな研究、誰かやってくれないかなあ(次回に続く)






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