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  • 執筆者の写真Manabu

深海巨大オタマボヤの居城

更新日:2020年12月8日

DeepPIV を使った3D再構築の論文が出ました。

https://www.mbari.org/deep-piv-3d-flow/


元同僚MBARIのKakani Katijaの論文がNatureに出たので簡単にコメント。


巨大オタマボヤGiant Lavaceanは深海に潜るとかなりの高頻度で出会う生き物で、その特徴は粘液でできた巨大なハウスを作ることです。このオタマボヤは動画のように尻尾を動かすだけで、マリンスノーを集めて食べています。注目すべき点が、その濾過速度。なんと毎時80L。約10 cm程度のオタマボヤが7cmくらいの尻尾を動かすだけで、直径1 m にもなるハウスの水を循環させています。粘液でできたハウスはとても脆いため、その構造を把握することは困難だったので、どのような力学で効率的にマリンスノーを集めているかは謎でした。深海からこのオタマボヤだけ地上に持ってきて水槽で飼育してもうまくハウスを作れずに死んでしまうそうです。



そこでKakaniが率いるMBARIチームはDeepPIVを開発してこれをハウスの構造に応用しました。PIVとはシート状のレーザーを照射し、そこを通過する粒子の速度を測定する技術です。それを深海で行うのは至難の技です。一度、ROVパイロットと話した時に、今までで一番難しいオペレーションは?と聞いた時、このDeep PIVが死ぬほど大変だと言っていました。ROVは海上の船とケーブルで繋がっているため波の影響を受けて上下します。その動きをキャンセルするように厚さ数 mm のレーザーを丁寧に当ててスキャンする必要があります。しかも、レーザーの解析を邪魔しないために、周りの照明を全て切る必要があるため、レーザに反射する粒子以外どこに何があるかわからない状態で解析します。1日30分もこの操作をすると、もうその日は何もできない。目も開けたくない。とベテランパイロットは言っていました。


今回このDeepPIVを使ってハウスの構造を明らかにし、オタマボヤの動きと粒子の動き(数、方向、速度)を把握することができたので、オタマボヤがハウスを使ってどうやって効率的にマリンスノーを集めているかを解析できることが可能になりました。


Giant Lavaceanはマリンスノーを集めますが、敵に襲われそうになった時など、ハウスを捨てます。捨てられたハウスは沈んでいくので、深海に潜ると、くしゃくしゃになったハウスがあちこちにみられます。数百メートルの深海の栄養源(炭素や窒素)の循環に大きな影響を与えていると考えられています。近年話題になっているマイクロプラスチックの影響をもろに受けるのが、このようなフィルターフィーダー(細かいのを濾して食べる生き物)達です。深海の海底に住むカイメンやホヤやサンゴなどもフィルターフィーダーですので、オタマボヤに捨てられたハウスによって運ばれてきたマイクロプラスチックは深海数千メートルの生態系にも影響を与えている可能性が高いです。


文章だけだと、いまいちなのでリンクから写真や動画などみてください。



Original journal article:

Katija, K., G. Troni, J. Daniels, K. Lance, R. Sherlock, A.D. Sherman, and B.H. Robison. Revealing enigmatic mucus structures in the deep sea using DeepPIV. Nature. June 3, 2020. doi 10.1038/s41586-020-2345-2


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